ZeTMAN-ゼブンジャー 序章 ラッキーセブン 「マフィアが運営する喫茶店!?」
「ねえお兄ちゃん、行きつけの喫茶店一緒に行こうよ」
最近、浅倉南にはまっているふわりにそう言われたのは、たまにの休日の日曜日だった。
「忙しいんだ、しっし」
「お兄ちゃん、寝ながら漫画見てなにいってんの?」
「うるさいなぁ。休憩中だ。休憩中」
「じゃ、ふわりが見張ってないとね」
こいつは冗談ではなく、ほんとにそうしそうだ。
「分かったよ。行くよ、行きますよ」
「ええ?今は休憩中なんでしょ?」
「休憩中だから付き合ってやるんだ、バカたれ」
そうやってふわりに休みの日を潰されることが続いている。こいつには、僕以外友達がいないのか。
で、例の喫茶店に行くころには昼過ぎになっていた。ふわりのやろうが、生意気にもお化粧や着替えに時間をかけるからだ。そのわりには、ちゃんと化粧ができておらず、ぼくは、化粧を拭くように命じたのだが頑ななふわりはそれを拒否。なんとか、化粧を拭かせるころには、お昼ごはんの時間になり、しかもメニューがぼくの好物のカレーライスだったため、ぼくだけしょげているという構図ができていた。そんなぼくの気分を知らず、ふわりだけはこどもみたいに無邪気な顔で歩いている。「るんるん」という効果音が聞こえてきそうなふわりの横を他人みたいな表情で歩いている自分がなんだか面白かった。別に歩きながら笑いはしないのだが。
きっとなんだかんだ楽しめそうだなと気分が落ちついた頃、例の喫茶店に着いた。前言撤回なんてダサイことはしたくないのだが、きっと楽しめる自信がなくなってしまった。なぜなら、昨日入った無茶苦茶なマスターのやっている喫茶店だからだ。ここのマスターは「常連客しか認めない」とか言っていた。そうやって昨日は塩対応というか追い出されてしまった。
「ここ、入るの?」
「うーん、なんでぇ?」
まるでコジコジみたいな表情で言いやがる。
「なんでって?ここのマスターヤベーやつじゃん」
「は?めっちゃお茶目な人なんだよ」
「どこがだよ!ヤベーやつだよ」
「お兄ちゃんの方がヤベーやつだから大丈夫だよ」
「だれがだよ、ばかやろー」
「ま、まあ、とりあえず入りましょう」
「わーたよっ」
がらんっ。
「あら、ふわりちゃん、いらっしゃい」
マスターが入れ替わったんじゃないかっていうくらいぼくのときと態度が違う。マスターがなんか近所のフレンドリーで面倒見のいいおばさんと化している。
「うふふ。マスター。今日もおねがいします」
「今日もおばちゃん張り切っちゃうわよ」
やっぱりだ。このマスター、オネエだったんだな。あきらかにおじさんだからな。見た目が。
「今日はダーリンを連れてきました」
「ダーリンじゃないけどな。どうも幼なじみの緋色絶斗です。今日はおねがいします」
「ふーん」
興味がなくても、一応興味があるフリぐらいしろ。
「それよりもふわりちゃん、そんなとこに立ってないで座りなさいよ」
マスターのいる目の前のカウンター席に案内される。マスターはぼくの方を見ながら「お前はいらねんだよな」とぼそっとつぶやいた。ふわりは、全く気がついていないみたいだが。
「ね、お茶目なマスターでしょ。最高なのよ」
あろうことか、そんなことをぼくに言ってくるふわり。
「そ、そだね」
「うん、うん、しかも味も最高なんだよ。ね、マスター?」
「やーね。当たり前じゃない。これで商売してるんだもの」
「それは早く飲みたいなぁ」
「、、、あんたに飲ませるモノはないわよ」
ふわりに聞き取れないくらいに小さな声で言っているマスター。まるで、呪文を唱えるみたいな声で。
「あれ、マスター、なんか言った?」
「うんうん。ふわりちゃん。今日もいつものヤツでいい?」
「もちろんよ、マスター」
「いつものヤツって似合わないな、ふわりには」
「なによ、お兄ちゃん。さては、コーヒー飲めないんでしょ、お兄ちゃんは。こどもだなぁ」
「こどものお前に言われたくないな。お前こそ飲めんのかよ、コーヒー」
「今どき飲めないほうがどうにかしてるよ、ね、マスター?」
「ええ。コーヒー飲めないのはおこちゃまだけよ」
「ぼくも、同じヤツで」
「あんたにあげるモノなんて、ないわ」
と小さくつぶやいた後で、
「ふわりちゃんのためにとびっきりスペシャルにするわ」と言うマスター。
「マスター?なんかお兄ちゃんに冷たくない?」
「なに言ってるの。ふわりちゃん。やーね。そこのお兄ちゃんはなににする?」
さきほどのぼくの「同じヤツで」は聞こえなかったことにしているみたいだ。
「じゃ、ブラックで」
「ふん、生意気ね。死ねよ」
今度は舌打ちを隠しきれていない。
こんな感じが続いてしばらくすると、ふたり分の注文が到着した。
やはりというか、ふわりのは、「キャラメルマキアート」だった。上には、アイスクリームのバニラがトッピングされている。これは、コーヒーではない。カフェラテ半分、デザート半分といったところか。
「美味しそうだな、ふわり」
「当たり前じゃない。さ、お兄ちゃんも飲んで。あ、こっちはあげないわよ」
「別にいいわ。自分のを飲むよ。いまはブラックの口なんだよ」
とブラックコーヒーをすすると、不覚にも感動してしまった。
「缶コーヒーと全然違うじゃないか?なんだ、これは!?コーヒー界のジョーンズか!?」
「あんた、失礼ね!缶コーヒーと一緒にするんじゃないわよ!わたしはこれで生活してんだからね!なめんじゃないわよ!ああ、やだぁ。センスがないガキに飲ませるなんて、わたしはくやしくてはがゆくて仕方ないわ。あんた1回くらい死になさい」
もうあからさまに態度に出ちゃってるよ、この人。しかし、コーヒーの味は本物だ。
「まあまあ、マスター。私の顔に免じて、ここは許してあげてください」
今度は涼宮ハルヒに影響を受けたのか、生意気な顔をぼくに向けてくる。ハルヒよりは、かなり弱そうだがな。
「ふわりちゃんの連れじゃなかったら、やっちゃってるところよ」
ここは、マフィアが経営する喫茶店なのか。シティーハンターの海坊主が経営する「キャッツアイ」か!?
「お兄ちゃん、よかったわね。私がいて」
よし、家に帰ったらとりあえずこいつを
マフィアに売ろう。