ZeTMAN-ゼブンジャー序章其ノsix「ツンってしたからって人気が出ると思うなよ」
自宅に帰るのを一瞬躊躇われた。なにせ3日も家に帰ってない。いい言い訳が思いつかなかった。おかげで自宅の玄関前のガーデニングでたちつくす。しばらくして、家で飼っている愛猫の「春馬」くんが甘えてきた。ぼくの足をすりすりする「春馬」がセクシーな姉さんだったらいいなとたまに思う。さっきまで、レイカさんに見とれていたからな、特に。
「なに、きもっ、お兄ちゃん」
「うわ、見てたのかよっ」
杉田智和みたいな声になる。
「自分の家の前でなにニヤついてんの?」
「いや、お前に会いたくてな」
多少なりともそんな気持ちはあったろうさ。
「なに言ってんの、バカ」
「ツンとすれば人気が出るわけじゃないんだ」
「は?」
「お前のツンにはいらつくな、おい」
「別にツンとかしてないし」
「ツンとかしてないし」
「もうお兄ちゃん、嫌い」
のわりには、声かけてくんだよな、こいつ。
「別にお前に嫌われてもいたくないがな」
「じゃ、本当に嫌いになってやるんだから」
「ああ、なってみるんだな、ふ、わ、り」
「もうしらない!」
ふわりはからっていたハンドバッグを投げつけてきた。
「いてっ、くそふわり」
走り去るふわりを見て一言「やれやれだぜ」。
ふわりに対して8割、自分に対して2割。
結局、自分のほうから謝ってしまう構図が見えているのに、ぼくはなぜこんなガキみたいなことをしてしまうのか。
ふわりがいる場所ならだいたい想像がつく。だが、シャクだからすぐには行ってやらない。せいぜい、後悔するがいい。ぼくにこんなめんどくさいことをさせやがって。
さてはあいつ、しばらく出番がなかったことに嫉妬しやがったな。夢にまで出てきたくせに。なんと、自分が物語のヒロインと勘違いしているようだ。ヒロインならヒロインらしく、おしとやかにするべきだ。
そうして、自宅で漫画を見ることにしたぼくは、ふわりのことはすっかり忘れていた。気がついたら、もう夕方になっていた。
時間を表示しているスマホのモニターを見てはっとする。なにか違和感がある。
その違和感の正体にすぐ気づいた。ぼくの中の時間の感覚と実際の時間とがかなり乖離していた。つまり、オルバ達と過ごした時間がこの世界ではなかったことにされている。ぼくはたしかに、あの世界にいた。それは、夢だったのか。
「考えてもしかたないな。それよりもあいつを探そう」
あいつが行きそうなところはいくつか候補があるが、まずはあそこに行ってみよう。
ぼくとふわりがいつも遊んでいた近くの公園。公園の隅々を探したが、いなかった。全く生意気だ。
ぼくはイライラを抑えるため、近くの喫茶店に入った。行きつけではなく、初めて入る。
「いらっしゃいませ」という元気な挨拶もなく代わりに「ち」という舌打ちが聞こえてきた。ぼくは、気のせいかと思い軽く会釈をするとまた舌打ちが聞こえる。こういうとき気の強い人ならば、「なんだよ、あいつ!」と言いUターンできるのだが、元来気の小さい自分には、それができない。
すごく気まずい空気が流れている。
「あの、入ってもよろしいでしょうか?」
「あん!?なんだい坊主、文句でもあるのかい!」
「い、いえ、なんでもありません」
「私は行きつけの人にしか提供しないって決めてるんだい!けぇりなぁ」
「はい、はい、そうさせていただきます」
とびびりながら後ろを振り向くと、やけにいけすかない表情の男性がいた。
「邪魔だ、ガキが」
なんだよ、こいつ!と舌打ちするのは、胸の中だけだ。
結局、家に帰るとなに食わぬ顔でふわりがぼくの部屋に滞在していた。聞いたこともないオリジナルソングを鼻歌で歌いながら、ぼくの寝床で漫画を見ているふわりのケツをけりあげる。
「なにするの、お兄ちゃん!」
「うっせえぞ。バーカ」
「もう帰る」
と部屋を出るふわりに「もうくんじゃねえぞ」と言っておいた。
「そっちこそ、もう来ないでよ」
「ああ、かっちーん」
「こっちこそ、かっちーん」
「いや、つっこめよ。ボケてんだよ。かっちーんって口で言うのおかしいだろ?」
「私はボケ担当よ」
「知るかい!それでもたまにはつっこめよ」
「い、や、よ」
「てか、早く帰れよ。この変態が」
「変タイガーってね」
「ちょっとおもしれぇじゃねぇか。ちょっとだけだぞ」
「お兄ちゃんこそ、私と話したいんでしょ」
「ああん?話したいから明日話そうぜ」
「よろしい」
お前は浅倉南に憧れでも抱いてんのか?悪いが、ぼくは浅倉南が苦手だ。