Z e TMAN-ゼブンジャー序章11 「ふたつのせかい ふたりのせかい」
あの後、世界一遅いジェットコースターをなんども体感することになった。仏陀も逃げ出したくなる
苦行である。それは、言い過ぎだ。
ふわりの奔放な生き方に振り回されることに慣れているぼくは、結局ふわりのペースに振り回される。
ぼくらはいつもそうだった。そうでなくてはいけなかった。
世界一遅いジェットコースターを何度も回っているうちにもう16時をまわっていた。このままでは、閉園間近まであの苦行を味合わないといけなくなるだろう。
「なあ、ふわりよ。もうそろそろ飽きてきたよな?」
「うん、なんで?」
無邪気さって時には恐ろしんだなと噛みしめながら、「ほら、ぼくらこれしか遊んでないぞ。いいのかよ?」
「いいに決まってんじゃん。楽しんだから」
「.それはお前だけなんだよ」と心の中でどくづきながら、「ほら、だって他のも楽しいかもしれないよ」と言った。
なんで、こどもをあやすようなことを言わないといけないんだろう。
「それもそうね」
「お前はわがままなお嬢様かよ」
「へ?なになにお兄ちゃんどうしたの?」
「なんでもねぇよ。とりあえず、別のに乗るぞ」
「私が決めるの」
「うっせぇよ。決めれよ、バーカ」
「変なお兄ちゃん」
ずっと変なお前に言われたくねぇな。
それからオバケ屋敷やらコーヒーカップやらいろいろなアトラクションを休みなく体験することになる。「とりあえず全部体験してやる!」と意気込むお前に言いたい。
「さっきまでのお前はどこにいった?」
そうして間もなく閉園間近になり、ぼくは「そろそろ帰ろうか」と言った。
「うん、もう全部体験したから、帰ろうかな。
、、、っあ、、あ!あ!」
「なんだよ、どうしたよ」
「ちょっと、あれに乗ってないじゃない!」
「あれってなんだよ」
「あれはあれでしょ」
「あれじゃ分かんねぇよ。ボキャブラリー皆無の今時のJKか!?」
「ボキャブラリーってなんだ?」
「お前のことだよ」
「?」
「言葉をどれだけ知っているかってことだ、ばかたれ」
「分かんない」
「ぼくはお前がバカだって言ってんだ。気づけよ」
「バカじゃないもん!」
「バカじゃない!って言うやつはバカなんだよ。バカが」
「むきー」
「猿かい!」
「猿じゃないもん」
「知っとるわ。それよりアレってなんだよ」
「お、た、の、し、み」
ぼくはふわりのおしりを蹴り上げる。
「イヤン」
「なにが、イヤンだ。さっさと行くぞ。あと、30分ぐらいしかねぇんだ」
「えいえいさ」
「えいえいさ」
アレとは、観覧車だった。なんとなくそんなことだろうと思っていたが、そのとおりだった。そこはボケてメリーゴーランドとかにするべきだったな。
「わざわざ観覧車に乗らなくても」とは思ったが、言わないであげた。となりで目を輝かせて観覧車が降りてくるのを待っているヤツがいるんでな、空気を読まないとな。
「観覧車乗りたかったんだな」
「うん。お兄ちゃんは?」
「ああ、悪くはないかもな」
「もう、素直じゃないんだから」
「悪くはないっていってるんだから、素直じゃないっていうのはおかしんだがな」
「おかしいのは、お兄ちゃんのほうだよ」
「お、ま、え、だ」
「ふふふふふふふふふふふ」
「ふ10個でとうふじゃねんだよ」
「ぶっぶー。11回言ってました」
「こどものやりとりか!」
そんなしょうもないやりとりをしていると、観覧車が下りてきた。
ぼくの前で奔放に楽しむきみとどこかぎこちない表情のきみが同じ人間だということは、ぼくだけしか知らないのだろう。
このふたつの表情をきみは無意識のうちに使い分けていたことをぼくは思い知った。どっちのきみもぼくにとっては新鮮で、でも片方のきみはぼくのことを大切に想い、もう片方はぼくのことを邪魔に思っているのだろう。
観覧車から見える景色は虹色と灰色を交互に映している。ぼくは笑った。