ZeTMAN-ゼブンジャー序章16 「しかし、断る!」
「なかなかやるじゃねえか。やはり俺様の目にくるいはなかったな。お前には才能がある。たとえあいつがまがいものだとしても、その状態では上出来だ」
大男のその言葉で理性を取り戻した。ぼくは人を殺してしまったのか。
「なんだよ、しけてんなぁ。俺様が相手なの忘れんじゃねぇよ、おらぁぁぁ」
「言ってる意味が分かんねぇんだよ。ふざけんじゃねぇぇ」
「ふざけてんのは、きさまのほうだぁぁ。あいつを殺ったみてぇにかかってきやがれ!」
「だから、言ってる意味が分かんねぇんだよ」
「テメェが本気出さねぇってんならよ、そこの女を殺すぞ、ああん!?」
ふわりのおびえた顔が視界に入る。
「きさま、殺すぅぅぅうう」
「望むところだぁぁぁあああ」
拳と拳がぶつかる。にぶい音が車内に響く。若干押されていたが、負けないように何度も拳をぶつける。そのたびに相手の拳にぶつかる。ぼくはやられることを確信してしまった。そのビジョンを認識してしまった。それに抗うようにぼくは拳をふり続けた。
やがてぼくの腕は上がらなくなった。
意識が朦朧としている。ぼくの精神を支えているのはたったひとつ。ふわりに対する愛情だけだった。
「なるほど、キサマはその程度か。俺様は実力の1割も出してないんだぜ」
なんてバケモンだ。敵うはずないじゃないか。ぼくは、ケンカなんかしたことないんだ。ケンカなんて小学生以来なんだぜ。
「正直、がっかりだぜ。期待外れだ」
期待外れでもなんでもいい。
ただ。
「ぼくは、、、殺してもいい。ただ、、、ふわりに、、手を出してみろ、、、お前を呪い殺す!」
「ふん。そんなの知るか!」
「なんだと、キサマ!」
くそっ。動け、ぼくの体!
「もうやめて!お兄ちゃんに、お兄ちゃんに手を出さないで!なんでも、なんでもするから!」
さっきまで怯えていたふわりが、大男に近づくとあたまを下げた。
「なんでもします。なんでも、どんなことでも!だからお兄ちゃんを助けて!助けてよ!」
「なるほど、こいつがそんなに愛しいか?」
「はい」
「ふわり、、、」ことぎれそうになる視界にひびく彼女のまっすぐな声。
「なるほど、、、」
大男はニヤリと笑うと、
「しかし!断る!」その言葉が聞こえたと同時にぼくの視界はシャットアウトした。