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【小説配信】ZeTMan~ゼブンジャー~序章1「白髪&アフロヘアーの男ってなんだよ」

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ヒーローのイメージ図


「ヒーローというのは孤独なんだよ」

「なんで?そう思んのか分かんねえなぁ」

「だって”世界を救う”とか”だれかを救う”ってたいそれたことを生業にしているわけでしょ。絶対に苦しんでると思う」

「そうかな。スーパーマンが苦しんでるとは思えないけど」

「いいや。絶対苦しんでる」

「なんで分かるの?ふわりに分かるわけないだろう」

「分かるモン」

「ぶりっこすんなよ。なにが”モン”だ。くまモンなのか。ポケモンなのか」

「絶斗兄ちゃんのそういうところキライだよ」

いつもの何気ない会話。この会話の”意味”を知る瞬間が来るなんて思わなかった。

 

 

ぼくの名前は緋色絶斗(ひいろぜっと)。”ヒイロ”だから”ヒーロー”だとよく友達にちゃかされていた。もしくは絶斗だから”マジンガー”や”ドラゴンボール”なんてのも呼ばれている。まったくそういう部分では両親に感謝している。ぼくの皮肉は両親には伝わってないらしい。

ぼくの話は置いといて、この物語のヒロインについて紹介しなければならない。

「ヒーローというのは孤独なんだよ」と彼女はよく言った。

いつもぼくは「ええかげんにしろ」という殺意を込めて、「なんで、そう思うのか分かんねえなあ」と答えている。もっとも彼女には伝わらないのだが。ぼくらの間ではそれがあいさつみたいになってた。訂正する。それはさすがにない。だが、ルーチンワークみたいなもんだ。

それに対してさも当たり前みたいに彼女は言うのさ。私の常識は世界の常識みたいな表情をしながら。それをいつもぼくは他人みたいな目をしながら傍観していた。

とにかく彼女はこう言う。

「だって”世界を救う”とか”だれかを救う”ってたいそれたことを生業にしているわけでしょ。絶対に苦しんでると思う」

そんなちょっと変わっている彼女の名前は音色ふわりという。ぼくの家の隣に住んでいるいわゆる幼馴染だ。彼女のほうが3歳下で、ぼくにとっては妹みたいな存在だ。ぼくには兄弟がいなかったので、なおさら彼女のことをかわいがっていた。

そんな彼女との関係が変わったのは、今から1年前のことである。

 

 

1年前ということは、ぼくが高校3年生でふわりが中学3年生ということになる。

この3年の開きによるところがぼくらの関係をうまく表していると思う。

高校3年の初めのころ、ぼくはまだ将来の不安などなく普通の高校生生活を送っていた。この普通というのは、あくまで客観でしかないのだが、放課後にアイドル活動なんかはしていない。よって普通の部類に入るのではないか。

この日もぼくは普通の生活を送るはずだった。まさかあんなことが実際に起こるなんて誰が想像できるよ。宇宙人を発見したNASAの宇宙飛行士よりも驚愕することは間違いない。

ぼくはその日を絶対に忘れない。4月上旬のできごとだ。

いつもと同じように朝からすごいムラムラする。男子高校生にとっては、普通の習慣だと思う。ぼくはさっそく押し入れに隠してあるエロ本を見ながらマスターベーションを始めるが、すぐにはイケない。ムラムラするときほどイケないのはなんでだろう。

朝のマスターベーションというのは、早く済まさないといけない。朝食の時間を奪われ、学校の準備が遅れ、やがて学校を遅刻する。遅刻の原因が「オナっていたので」とは言えない。一瞬でクラスの人気者になれるだろうが、女の子の好感度は下がりそうだ。

なかなか出そうにもないので、あせってよりイケなくなる。どうするかと真剣に考える。このまま続けるか、それともムラムラしたまま授業を受けるか。

ひとつしかない。

このまま続けるだけだ。遅刻の言い訳は後で考えよう。

ぼくはうまくリラックスできたのか、やりかたを変えてみた。女の子がまるで近くにいるかのようにイメージした。それが功を奏したのか今にも出そうになる。それにあがらずぼくは射精する。それと同時にぼくの部屋のふすまが開かれる。ぼくは慌てて、掛布団に逃げる。ズボンについた精液はまだふけてないから掛布団に付着する。

「こら、お兄ちゃん。いつまで寝てるの」

まったくタイミングの悪い。今はほっといてくれ。すぐに行くから。

背中で発したぼくのメッセージは彼女には届かないようだ。ふわりはぼくの掛布団をむりやりはがそうとする。ぼくは思わず抵抗する。彼女は意固地になってさらに強い力で引っ張る。もういい。好きにしやがれ。

なにがどうなったのか。ふわりはよろめきぼくの上に倒れこむ。思ったよりも大きな胸がぼくの顔にぶつかる。ふくらむぼくの陰部が気まずそうにしている。

「おいふわり。早くどいてくれないか」

やっとの思いでぼくが発するのにどれだけ時間がかかっただろうか。お互いになにを言えばいいか分からなかった。

「ごめんね」

ふわりはなぜか浮かない表情をする。

「分かればいいけどよ」

まるで兄貴みたいな口調になる。いつもそうなのかもしれないが。

彼女の去った部屋に残るにおいはどこか切なさを感じた。上手くいえないが、それを表現する言葉は見つからないが、とにかく今までのぼくらでいれなくなる予感がした。

 

 

ぼくはその日学校へ行かなかった。

むかしよく遊んでいた公園のベンチで寝転がりながら、風をただ感じていた。

ただ風と一体化したように、ずっとぼんやりしていた。ぼんやりと彼女との思いでを振り返りながら、ぼくは寂しそうににやけていた。

「私ね大きくなったらお兄ちゃんのお嫁サンバになるの」

女の子がだいたい3歳ぐらいに言うであろう「大きくなったらお父さんのお嫁さんになるの」のパロディであるこの言葉。お嫁サンバと勘違いしているのは、彼女の母親が郷ひろみのファンだからか。

6歳の絶斗少年はなぜか「蹴り倒すぞ」と言ってしまい、3歳の淡い恋心を傷つけてしまう。泣いて暴れるふわりを優しく抱きしめると絶斗少年は「お嫁サンバになるから泣くなよな」と言った。お嫁サンバならいくらでもなってやる。なりかたは知らないが。Wikipediaに書いてあるはずだ。

 

お嫁サンバのことを思い出したら、胸の中が少しだけスッとした。

そろそろ家へ行こうかと時計を見ると、もう12時を回っていた。家を出てもう4時間以上も経つのか。

家に帰ったら母親にバレるだろうから、どこか適当に時間をつぶせる場所を探すことにした。高校生に大金があるわけないので、必然的に安価なファミレスかハンバーガー屋さんかになる。とりあえず歩きながら探そうかと近所の歩道橋を歩いていたら、リモコンが落ちていた。

なんだろうと思い手に取ると、「ホッホホーイ」という訳の分からない声が聞こえてきた。

歩道橋の手すりの上をアフロヘアーの白髪の老人が歩いている。

聞いたことのないワードである。

歩道橋の手すりの上をアフロヘアーの白髪の老人が歩いている。

やはり、もう一回反すうしてみても、理解できない。もしかしたら、アメリカではふつうの光景なのかもしれない。

「やあ、少年」

うわっ喋りかけてきた。ぼくじゃないよな。

「やあ、少年」

きっと、別の少年に話しかけているのだ。無視だ。無視。

「やあ、少年と言っておるのだ」

「やあ少年って言われてだれが答えるんだ」

「そこにいるですやん。今ナウでいるですやん」

うぜえ。

「うぜえ」

「え?」

「吾輩は猫であります」

、、、。

、、、。

「お前まさか心が読めるのか」

「あたりまえだよ。前田さ~~~ん」

「男前だね木村く~~~んじゃねえよ」

この白髪&アフロの老人こそが、ぼくの人生をめちゃめちゃにした張本人だ。人は見かけによらぬ者というが、こいつは例外である。アフロにまともなやつはいない。しかも、ホワイトだぞ。

 

 

白髪&アフロヘアーの老人は、歩道橋の手すりから降りると、「少年はリモコンをひろった」と言った。

「は?」

「リモコンを拾い、わしと出会った」

「、、、、、、」

「つまり、『ヒーロー』になる」

は?

「少年はリモコンを拾った。リモコンを拾い、わしと出会った。つまり、『ヒーロー』になる」

すいません。ここはアメリカですか?

「少年よ。ここはアメリカです」

「いや、福岡や」

「ちょっとなに言ってるか分かんないです」

サンドウィッチマンの富澤してんじゃねえよ」

「真面目にしろや」

「こっちの話だよ」

「少年よ。ここは夢の国です」

「ディズニーランドか。ここは。さっきまで、ミッキーがいたのか」

ぼくがつっこんでいると、景色が一変した。

ウエハースの通路。色とりどりのグミで彩られている木々や花々。そしてチョコレートの家。茶色だけではなく、ピンクやホワイト、ブラックもある。

「どちらかというとメルヘンですね」と白髪&アフロヘアーの老人が言う。

「それよりここは、なんだ?」

一応、驚いたようなリアクションをする。一気に場面が展開して、驚くひまもないということがバレるのが、すごい恥ずかしい。よく考えたら、こいつ心が読めるし、意味ないんだけど。

 

 

序章1 終了

 

 

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