ZeTMAN-ゼブンジャー 序章 其のはっちゃん 「ぼくらは付き合ってないぞ!」
休日はこいつに日程を潰されてしまうことが定番化している。昨日に続いて、ふわりにまたもや「お出かけ」を急かされる。ぼくの知らないところで、ぼくらは付き合ってたのか?ただの幼なじみなんだが、ここまでプライベートを一緒に過ごしていたら、付き合っていると勘違いされるだろうがよ。
ということで、とりあえず拒否する。
そこで引かないのが、こいつの悪いところである。
「なんで?なんで?」
「無邪気だったら許されると思うな。ばかたれ」
「そんなこと思ってないもん」
「なにがモンだ。かわいくねんだよ」
「かわいすぎておかしくなっちゃったの、お兄ちゃん」
「なんでだよ。かわいいからおかしくなるってどんな状態だよ。それより、なんで遊園地なんだよ。
勝手に付き合ってるみたいに思ってるかもしれないがな、ぼくらはただの幼なじみなんだよ」
「うえーん」
「泣いてもむだだ!」
「お父さんに言いつけてやる。みんなに言いつけてやる!」
「やめろよ、それは」
「だったら、デートしないとダメよ」
「オメエ、とんでもねぇな」
「まずは、カラオケね」
おい、だれも決定なんてくだしてねぇぞ。
つっこむ気も失せた。
ふわりとふたりきりでのカラオケだったなら、まだマシだっただろう。セットにふわりの両親がついてきた。ふわりの両親とは、小さいときから仲良くしてきた。家族ぐるみでの付き合いだから同然なのだが、問題は父親である。父親がわりと親バカなところがあり、それが心配であった。
だが、その心配は必要なかったらしい。いざ、カラオケに来てみれば、だれよりもふわり(父)が楽しんでいるように見える。娘が歌っているときの合いの手のやり方が親バカすぎて面白い。
てか、ふわりの選曲はもっとウケる。
本多雄基の「NOT TELL FEELING EXPROSION FE ELING」を選ぶ時点でやばい。しかも、独特なビブラートの出し方とか完璧に再現している。
ふわりは気持ちよくその曲を歌いあげると、飲み物をとりに退出した。
さっきまで、合いの手に専念して、ぎゃくに娘の歌声をかき乱していたふわり(父)の態度が急変した。急に恥ずかしくなったのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「きみはどーゆうつもりかね?」
きたーっ!めんどくせぇやつ。
「聞こえないふりか?どーゆうつもりかと聞いてるんだ」
「なにがですか、おっさん」
「きさま、だれがおっさんだぁ」
「めんどくさいおっさんにおっさんといって、なにが悪いよ」
「お前みたいなヤツに娘はやらん」
「だれが娘さんをくださいと言ったよ、ハゲ!」
「ええい!だまらっしゃい!」
「あんたがうるさいよ、ハゲ」
「ハゲとらんわ!」
「ああ、ちょっと顔近づけないでください、バカがうつるんで」
「なんだとー!」
「お父さん、いいじゃありませんか。絶斗くんなら
ふわりをしあわせにしてくれますわ」
さっきまでぼくらのやりとりを笑顔で聞いていたふわり(母)が、いらんことを言ってきた。あなたは黙っていてください。
「ええーい。うるさいわ。娘はだれにもやらん!」
「だから、だれも娘さんをくださいとか言ってねぇだろうがよ!あ、あん!テメェらぁ!くらしあげるぞ!」
「お前ごときにやられる程、甘い鍛えかたはしておらぬ」
「腹が出てんだろうがよ、おっさん。ライザップで絞ってから言えや」
「うむむ。いたいことをつきおって」
「ま、仲いいんだから」
たぶん、ふわり(母)がいちばんヤバイ。
そんなぼくらのやりとりを聞いていたふわりが部屋に入ると「お父さんと兄ちゃんがそんなに仲よかったなんて、わたし感激したわ」と言った。
それから、カラオケは夕方まで続くことになるが、その話はまた今度しよう(たぶんしない)。