ZeTMAN〜ゼブンジャー4話「ゴリラのち晴れ?ゴリラのち雨?」
ぼくはゴリラじゃない!ゴリラじゃないんだー。
と叫び、目が覚めた。
すると、目の前には、ふわりがいた。
「なんだよ、てめぇー」とりあえず、こいつに八つ当たりすることにしよう。
「なんなの、お兄ちゃんひどい」
「いや、ゴリラになってたんで」
「ゴリラ?」
「いや、こっちの話だ。気にするな」
「変なお兄ちゃん」
「それより、ふわりがなんでいんだよ」
「お兄ちゃんがいつまでも起きないからでしょ?」
「あ、うん。分かった。すぐ起きるから。先に下で待っててくれ」
ふわりが階段を下りるとすぐそれにならうかのようにぼくもリビングに向かった。
リビングに着くといつものように朝の情報番組をやっていた。不思議と興味がなくてもみてしまう。それが、朝の情報番組だ。ぼくがその番組を見ながら、菓子パンを頬張っていると母が不思議なことを口にした。なんかの気のせいだろうと思ったが、どうやら違うらしい。
「今日の天気は、ゴリラのち晴れです」
お天気キャスターはたしかにそう言った。
「ゴリラのち晴れってなんだよ!」
とぼくがつっこむと、
「ゴリラのち晴れはゴリラのち晴れでしょう」と母がぼくを馬鹿にしたようなかおを向ける。
「お兄ちゃん、わたしはゴリラのち雨かと思ってたわ」
「そんなんはいんだよ。晴れか雨は関係ねぇんだ。ゴリラってなんだよ。ゴリラって。さっきからゴリラがとまんねぇな」
「あなた、熱でもあるんじゃない?」
「熱があんのは、あんたらだろ?」
「なによ、あんた。今から病院行きましょう」
母が本気で心配している顔をしている。
「冗談だよ。冗談」
ぼくは半ば諦めるかのようにそう言った。
「変な冗談はやめてよ、お兄ちゃん」
「ふわり。悪いな。顔洗ってくる」
洗面所で顔を洗い、洗面所のカガミをふと見ると、ぼくはこの世界に驚愕した。
「ま、ま、ま、ま、マジかよ!」ぼくはゴリラだったのだ。
うっほ。うっほ。うっほ。
うっほ。うっほ。うっほ。
「いや、ゴリラのリサイタルはいらねんだよ。『もういっかい』じゃねんだよ。大塚愛か!?」
寝起きの一言がツッコミってなんなんだろう。それより恥ずかしいのは、あろうことか目の前にレイカさんがいるということ。
「い、い、いまのお聞きに」
「聞いてないから大丈夫です」
「いや、絶対聞いてんじゃん。恥ずかしい」
「大丈夫です。耳栓していたので」
さては、うそつくの苦手だな、この人。
そう心でつぶやきながらぼくは、頬をつねった。
よし、いたい。夢じゃないみたいだ。
「ところで、なんでレイカさんが」
「なんでってあなたを探していたんですよ」
いまの言葉は死ぬまで覚えておこう。そして後悔する。録音しておきたい。レイカさん、『もういっかい』言ってもらっていいですか?
代わりにぼくは、「ぼくもあなたを探していたんですよ」と言った。
「キモいです」
「いや、違います。そういうことじゃなくて。そういんじゃないんだよなぁ。はは」
「、、、それより、もう朝ですよ。リビングに来てくださいね」
レイカさんは、気を悪くしたのか席を立とうとする。
「あ、あの、その」
「なんですか」けっこうトゲのある言い方である。
「あ、あの。リビングに行けないんです」
「え、リビングはすぐ横ですけど」
「へ?」
「はい。出て右行くとすぐリビングですよ」
レイカさんの後をついて行くとたしかに右となりにリビングがあった。
リビングでは、オルバが先に朝食を済ませていた。
「おやようマッスル」
こいつの存在だけは、ゆめであってほしかったと思う。なんならこいつよりは、まだゴリラのほうがマシである。ゴリラがかわいそうだな、そんな言い方をされたんじゃ。
「おはよう」一応、あいさつは返すのが礼儀だ。マッスルはもちろん言わない。
「マッスルは?」
「ゴリラのほうがマシじゃー!うっほ」
「ありゃりゃ、しばらく見ないうちにゴリラになっていたんじゃな」
「だれがゴリラですか?もう思い出したくないわ!」
「ゴリラにトラウマでもあるんですか?」
レイカさんも夢のなかでは、ゴリラだったんですよ。とは言えない。代わりに「ゴリラ恐怖症なんですよ」と返した。ゴリラ恐怖症ってなんだ?
「あ、はい。そうなんですね」
レイカさん、つまらない芸人を観た後みたいな顔しないでください。
「それはそうと絶斗くん。きみ、大丈夫かい?」
「オルバさんの頭よりは大丈夫ですよ」
「ふざけるない、小僧が」
たぶん、あなたよりはふざけてないが一応、謝罪しといてやる。
「すみませんといって吸いませんってね」
「シーン」
「シーンって言ったら、変な空気になるじゃろ、絶斗くん」
「いや、あんたのフォローをしとんだ」
「シーンは寒いですよねー」
「うん、我ながらそれは感じてるんだよ。ひしひしと。レイカさんの表情からも伝わってきてますよ」
「いえ、ある層にはウケると思いますよ」
レイカさん、それは「わたしはまったく面白いとは思わない」ということと同義語ですよ。
「こらこら、レイカくんまでふざけおってからに」
「あんたが言うな」
不思議とレイカさんとハモった。この人、意外にお笑い好きなのか?
「それよりも、絶斗くん完全に勝負忘れとるじゃろ?」
「へ?お、お、お、おっ、、なんでもないですよ。レイカさん。勝負?あ、、、うん」
ゴリラのせいで忘れてた。けっこうまずくないか?
不味くはないんだが。
「勝負に負けたら、どうなるか分かるぞい?」
「どうなるんでしたっけ?」
「ここで一生わしの奴隷じゃい!」
「へ?」
ぼくは、その情景をイメージする。
オルバ家の執事として家事、雑務をこなすことになる。料理が全くできないぼくは、レイカさんに手取り足取り仕事を教えてもらい、仲良くなったぼくらはめでたくゴールイン。これでいこう。
「きみ、なにか勘違いしてないかい?ま、いいが」
どうやらぼくは、しあわせオーラを放っていたらしい。
「いや、絶対に彼女をしあわせにしてみせます」
「いや、だれが親父やねーん」
普段ボケをしているやつがツッコミをするとこうなるでおなじみのオルバさん。
「あの、奴隷ってことはどうなるの?」
「死ぬまで働いてもらうということです。レイカさんにじゃなくて、ワシに」
「は、は、は、は!?」
「レイカさんなら歓迎ってツラやめんかーい」
ぼくの代わりにだれかツッコミしてくれ。
そのツッコミは想像以上に痛かった。レイカさんの拳がぼくの顔面に直撃したと思ったら、意識がフェードアウトしていく。
お父さん、お母さん、今までありがとう。